ある表紙との出会い
数年前、偶然ネットで見かけた写真集の表紙。
地図の上に緑の靴を履いた足元が写っていて、その色合いと構図に心を奪われました。
そのときはまだ、ルイジ・ギッリをよく知らないまま作品集を購入。
今年、東京都写真美術館の展示でその名前を見つけ、私は懐かしい人と再会した気分になりました。
ルイジ・ギッリ 終わらない風景
会期:2025年7月3日(木)〜 9月28日(日)
会場:東京都写真美術館

ギッリが見つめた日常の風景
展示には、「何かを見ている人の後ろ姿」など、日常を捉えた写真が並びます。
誰もが目にしているのに見過ごしてしまう風景。
ギッリはその“ふとした瞬間”の美しさやユーモアを楽しんでいるように感じました。

私が購入した写真集の表紙、《カプリ、1981》〈イタリアの風景〉もありました。
やはり実物の写真の色合いに惹きつけられます。

心に残る色、記憶をたどる色
ギッリの写真は派手さはありません。
でも、水色や緑、やわらかい光の色――どれも心の奥にしまっていた記憶を静かに呼び覚ますような色彩です。
写真集から抜け出した実物の色合いは格別で、興奮気味に作品を見ていきました。


“読めなかった本”を手に取って
写真集を買ったとき、一緒に『写真講義』という本も読もうとしましたが、全く頭に入ってきませんでした。何が書いてあったのかも思い出せません。
ところが今回の展示を見たあと、ふと本を開いてみると、不思議と面白く読み進められました。
「わかろう」とするのではなく、「知りたい」と思ったからかもしれません。
作品を見て、自分の中に問いが生まれていたから、言葉が心に響いたようでした。

街を撮ることが、少し楽しくなる
私は街の風景を撮るのが好きです。
上手に撮れなくても、記録ではなく“自分の目”で見た証として残せるのが楽しいのだと思います。
今回の展示を見て、撮ったあとに「どうしてこれを撮りたくなったのか」を、自分の言葉で残しておきたくなりました。
写真とことばが揃ったとき、ようやく自分の中の感性が少しだけ形になる気がします。
おわりに
ルイジ・ギッリの写真は、とても静かです。
でも、その静けさのなかに、確かに流れる時間や、見えないものへのまなざしが込められていました。
「終わらない風景」とは、もしかすると、自分の中で静かに広がり続ける記憶のことなのかもしれません。

コメント