とあるメールマガジンで、“建物を建てない建築家”という言葉に目が止まりました。
紹介されていたのは、坂口恭平さんの『BAUをめぐる冒険』という本。世界を旅して出会った建築を、自らの視点で綴った探訪記です。
建築の本、と思って読み始めたら――気づけば私はその「文章」に心を奪われていました。
▼BAUをめぐる冒険 坂口恭平著 左右社

とても気になる著者
「自分が何をしている人間なのか、うまく説明はできない。でもずっと変わらず一つのことをしている。」そんな自己紹介で始まる『BAUをめぐる冒険』
夢を叶えたのは間違えなさそうだけど、大学の建築学科を卒業して建物を設計する、いわゆる普通の建築家にはなっていない。でも「自分のための空間を自分でつくる」ことがしたいから建築家として生きている。
そんな面白いことを言う人、気になってしかたありません。冒頭の文を読んですぐに本を置き、著者はどんな人か調べだしました。
型にはめてはいけい人
坂口恭平さんはXやnoteで自分の経験や考えを惜しみなく公開しています。
それこそ単純明快、世間の目を恐れずに、自分の信じる道を進んでいるのがわかります。
noteで公開している中学生への講座は「大人になるための技術」を紹介していました。
学校では教えてくれないこの技術、すぐに実践したいと思いました。
ここでも坂口さんを小さな職業の型にはめてはいけない人だということがわかります。
さらに深堀りしたいという“いつもの癖”を、ここはぐっとこらえて…そんな坂口さんの建築探訪記に戻ることにしました。

言葉の冒険に出る
建築を語るとき、形や素材の説明だけでは見えてこないものがあります。
その場所の空気、光、建築家や住む人の思い――そこに命のようなものを感じ取る坂口さんの文章に、一緒にそこで建物を見上げている感覚になります。それは読者にとっても冒険です。
坂口さんが訪れたビルバオのグッゲンハイム美術館について、こう表現しています。
「蕾が開き、花が咲く瞬間をスローモーションで見ているような躍動感も感じる」
金属でできた建築に、花が開くような躍動感を見出す感性。その言葉に、私は驚きとともに深く共感してしまいました。

過去の読書と、今ここで出会う
坂口さんの文章を読みながら、ふと思い出したのが『DEEP LOOKING』という一冊。
かつて、「語彙力を育てたい」と思って手に取った本でした。
「深く観察すること」の考え方が、坂口さんの文章と静かにつながった気がしたのです。
▶「DEEP LOOKING」 想像力を蘇らせる深い観察のガイド ロジャー・マクドナルド著

これは本当に偶然で自分でも驚いたのですが、DEEP LOOKINGの本の帯には坂口さんの推薦文がありました。久しぶりに本棚から取り出してみてびっくりしました。
最後に
貴重な世界の建築の話を期待して読み始めましたが、予想外に「言葉」に魅了された読書となりました。
日々、言葉に悩んでいる私にとって、坂口さんの豊かな表現は本当にうらやましく感じられました。
ご本人曰く、「書きたくて書いている」からなのでしょう。楽しさが伝わってきます。
言葉でめぐる冒険、ぜひ体験してみてください。
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