守るために強くなる ──『ほんのささやかなこと』クレア・キーガン

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「イギリス」という国はない──そんな説明を聞くたびに、一瞬驚き、ああそうだったな、と思う。
イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドから成る「イギリス」。
そして今回、「アイルランド」はその中に含まれていないと知って、また驚く。

そんな遠い国、アイルランドで暮らす人々の物語を読みました。
静かで、重く、でも確かに光のある物語でした。

『ほんのささやかなこと』 クレア・キーガン(著) 鴻巣 友季子 (訳)

▼詳しい本の情報(早川書房)

ほんのささやかなこと
1985年、アイルランドの小さな町。寒さが厳しくなり石炭の販売に忙しいビル・ファーロングは、町が見て見ぬふりをしていた女...

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ほんのささやかなこと
【毎日新聞、朝日新聞、日経新聞、週刊文春などで続々取り上げ!】1985年、アイルランドの小さな町。 クリスマスが迫り、寒...

アイルランドの小さな町から始まる物語

主人公は、妻と5人の娘とともに暮らす真面目な父親。
ある日、仕事で向かった女子修道院で、異様な静けさと、そこに暮らす女性たちの存在に心をざわつかせる。
修道院と、娘たちが通う聖マーガレット学院は、ほんの壁一枚しか隔てていない。

自分の生い立ちと、町にひそむ冷たい現実に向き合ったとき、主人公は「家族を守るために、自分が何をするべきか」に気づいていく。

寒さと冷たさ

クリスマスシーズンの町の描写が、読んでいて本当に寒くなりました。
アイルランドの冬、そして女子修道院の存在は、ただの寒さではなく、社会の冷たさを象徴しているようにも思えます。

誰も気づかない場所で、誰かが傷ついている

言葉の中のぬくもり

“最良の人たちと付き合いたいなら、いつでも丁寧に接すること…”
そんな小さな言葉の積み重ねが、主人公の誠実な生き方を支えています。
寂しい生い立ちも、知らず知らずのうちに守られていたと気づいたとき、読者の心もまた温かくなります。

“そういうことだけは教えてこられて良かった”──あたたかい言葉が胸に沁みる。

行動の行く末は描かれない。でも

娘たちを誇らしく思いながらも、この町で大人になっていくことに不安を感じていました。
主人公が起こしたささやかな行動の“その後”は描かれていません。
だけど、その一歩が確かに何かを変えていくことを、信じたくなります。

さあ、一緒に帰ろう

最後に

短い物語だからこそ、何度もページを戻って読み直しました。
静かな語り口の中に、怒りや悲しみ、希望や祈りがじんわりと沁みてくる。
読むほどに味わい深くなる作品でした。

この小説はフィクションですが、実際に修道院のような施設が存在し、1996年の閉鎖まで続いていた事実に驚かされます。

・・・・・

読書には温かい飲み物をどうぞ。大好きなコーヒーです。

大人のブックカバー

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